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第12話:冬 結婚編

待ち合わせはいつも御殿場のコンビニだった。

私が雑誌を読んでいると、雄大の車が目の前に入ってきた。雄大は笑顔で私に手を振る。

雄大の車に乗り込むと、笑顔で挨拶した。でも、うまく笑顔が作れているのか自信がなかった。

それは、今日は雄大の浮気を問いただす、と決めていたから。いや、事によっては別れすら考えていた。

でももしも別れるとなったら、そのことを考えただけでも胸が苦しくなった。

だから私は車に乗ってから黙り込んでしまった。

窓から流れる景色を見て、短い間だったけど雄大と色々なところに行ったことを思い出した。

「それで、今日はどこに行こうか?」

ふいに雄大が話を振ってくる。数秒の間があって、言葉が頭の中に入ってきた。

「あ、ど、どこでもいいよ」

「そういうと思ってプランを考えておいたよ」

ニッコリと笑って雄大は車を小山町へ走らせた。

着いたところは辺鄙な公園だった。公園の奥の方に大きな斧が刺さっている。

「ここは金時公園といって、金太郎の生家の跡地なんだ」

なんで雄大は私をここに連れてきたんだろう。

それから雄大の謎の小山町ツアーが始まった。

次に富士スピードウェイに行き、冨士霊園に行き、浅間神社に行った。どこも冬だからか閑散としていて、寂しさを感じさせた。

浅間神社を回って、車に戻る道中に雄大が言った。

「小山町って何もないと思うだろ?」

「え、そんなことないよね。色々回ってくれたじゃん」

「観光スポットなんて、実は大した魅力じゃないと思うんだよ。奈緒ならわかるだろ?」

たくさん旅をしてきて思っていたのは、名所がすべてではないということだ。むしろ私は旅先で出会う人に魅力を感じた。いい町はいい人で満ちている。旅の醍醐味は、それに出会う瞬間だ。

「俺はなんとなくこの小山町が気に入ってさ、将来はここで暮らしたいなぁって思ったんだ」

雄大の言いたいことはなんとなく理解できた。でも、このまま雄大のペースで話が進みそうで怖くなった。私の言いたいことを先に言わないと……。

「ねぇ雄大。ちょっと待って」

「ん、どうした?」

「わ、私の友達が言ってたんだけど……。その……、見たんだって」

「何を?」

「雄大が、女の人と一緒にいるの」

雄大の方を一瞥すると、彼はキョトンとしていた。思っていた反応と違う。

「小山町で会ってたんでしょ? そのカノジョと」

「ごめん、それは誤解だよ」と雄大はすっぱりいい切った。

「ごめん、心配させたなら謝る! その女性は長田さんだよ。ほら、奈緒と出会った小山町役場主催の婚活パーティーで司会やってた、あの人。小山町の暮らしについて相談してたんだ。」

「え、あ、そうなんだ……」

私は張り裂けそうな心臓がほっとするのを感じて、雄大にもたれかかった。

「よかったぁ」

「ごめんね、心配させて。全くの誤解だから」

「うん、私の方こそ、ごめん」

「奈緒、一緒に暮らそう」

「……え?」

「この町で」

一瞬何が起こったのかわからなかった。

「実は長田さんと色々決めてたのは、小山町のどこに住もうかってことなんだ。小山町って、町で移住の支援をしてるらしくてさ。ほら、このHP……」

雄大のスマホを覗くと「ASUO」というロゴが表示されたサイトが表示されていた。小山町定住・移住情報サイトか。……って、え? ふと我に返る。これってもしかしてプロポーズ?

「え、気が早くない? 私まだ何も言ってないのに」

「ほら、旅って計画が大事じゃん。先に計画を練っておかないと、無用なトラブルが増えるだけだし。一番長いのが人生っていう名の旅だからさ」

「なに、全然うまくないんだけど」

ふたりとも声に出して笑った。私は一人で何を心配していたんだろう。雄大はこんなに真っ直ぐ私のことを考えてくれている。私は自分を恥じた。

「そういう二人の計画は、これから二人で決めようよ」

「そうだね」

私は雄大の手を取った。なんだか急に未来が開けたような気がした。