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第4話:夏 子育て編

僕は大学生の時に福島から上京をし、そのまま就職した。現在35歳、仕事も春に主任から課長に昇進し、部下も増えて責任が徐々に大きくなってきている。プライベートでは3年前に同じ大学に通っていた菜々子と結婚し、いま彼女は妊娠6ヶ月。初めての子どもということもあり、いままでのようにはいかないなと思っていた。生活を変えるということではなく、気持ちの面でもっとしっかりしないといけないということだ。それなのに菜々子は突飛なことを言い出した。

「ねぇ、明人(あきひと)」

夕飯を食べ終わった時にぽつりと彼女は言った。

「引っ越ししない?」

「え? なんだよ、急に」

「ずっと考えてたの。この子ができてから」

菜々子はふくらんだお腹をふわりとさする。「この子にとって良い環境で育てたいなって。ほら、東京ってなんだか狭くて、暑くて、緑もなくて、息苦しいじゃない」

「いや、それはそうだとしても、え、東京そのものから出るってこと?」

「明人は福島で育ったんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」

「田んぼが多くて、山が多くて、緑が多くて、なんだか時間がゆっくり流れてて、すごくいいところだよね」

「え、福島に引っ越すの? いやいや、無理でしょ。だって、仕事東京じゃん。どう考えても通えないし」

菜々子はそういう僕の言葉を目を伏せながら真摯に聞いていた。想定通りといった感じで。

「え、まさか……。おれに仕事を辞めろって……? いやいや、福島行くの? え、なんで?」

「福島じゃなくて、もっと近いところ」

「え、もっと近いところ?」

菜々子は僕の瞳の奥を突き刺すように見て、立ち上がった。棚から一枚の紙を取り出し、机の上に置いた。そこには「富士山のふもとで暮らそうツアー!子育てにバツグンの小山町を見てみませんか?」とダサいフォントで書かれていた。

「今週の日曜日、予約しておいたから」

「いやいやいや、ちょっと待ってよ。先走りすぎでしょ! そもそもなんで小山町? え、東京から出るにしても神奈川とか埼玉とか千葉じゃなくて、なんで静岡までいっちゃうわけ?」

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、もう一枚の写真を机の上に置いた。