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第2話:春 定住編

東名高速道路は山に飲み込まれていくように続いていた。ハンドルを握る健(たける)はどこか上機嫌で、カーステレオの歌に乗せてリズムをとっている。これから健の住む小山町に向かう。私にとっては人生で二度目の小山町だ。

 

トンネルを抜けて大きな橋を渡ると、白い雪をかぶった巨大な富士山が目の前に現れた。「わあ、でっかい!」私は思わず叫んだ。

「すごいだろ? まぁ俺は見慣れてるけど。実は富士山の頂上も小山町なんだぜ」

得意気に話す健がなんだか可愛らしかった。

「ようこそ、小山町へ! ではこれから小山町をご案内いたします」高速道路を御殿場インターで降りて246号線を北上する。「いきなりですが、小山町を俯瞰で見ていただきましょう」

なぜか健がバスガイドみたいな口調になっていた。小山町に入って、そこから山に向かう。

車はずんずん細い道を進んでいった。

過ぎゆく景色を見て、なんて田舎なんだろう、と改めて思った。とにかく人がいない。閑散としすぎている。いったいいつ人が現れるのか、変な期待と不安がこみ上げてきた。

 

坂を登り切ったところで駐車場らしきスペースに車は止まった。ボロボロの木の看板には「誓いの丘」と書かれていた。

「別に誓いに来たとかじゃないから。こっちこっち」

健の方に行くと、200度近いパノラマが広がった。正面には雄大な富士山で、その裾野には建物がポツポツあるのが見えた。

「意外に小山町もおっきいんだね」

「いや、そっちは御殿場で、こっちが小山町。まずは全体を見てもらったほうが早いかなぁって」

「全体を見てもなんにもピンとこないけどね。でもすごい景色」

「のんびりしてて、いいところだろ?」

「だからまだわかんないってば」

 

今度は登ってきた道を下り、町の中へ入っていった。やっと人が現れた、と思ったけれど、数えるくらいしか人はいなかった。

「観光地じゃないからね。そんなもんだよ。だからいいんだよ、のんびりしてて」

町の中を抜けていき、「金時公園」にたどり着いた。金太郎らしき雰囲気のする公園には、巨大な斧がささっていた。

「お察しの通り、ここは金太郎の故郷なんだよ」

「へぇ……」まさか、こんなところに金太郎の故郷があろうとは。というか、金太郎が実在の人物だということの方に驚いた。

「健君!」

「おお、めいちゃん」

左手のゲートボール場から小さな女の子が声をかけてきた。

健は女の子の頭を撫でながら「元気?」と話しかけている。どうやら健の近所の子らしく、たまに遊んでやるんだとか。

なんだか映画でみるようなほのぼのした光景に、こんな世界があるんだとちょっと新鮮な驚きを感じた。少なくとも私の住む横浜では、あまり見られない光景だった。

 

金時公園を後にして、最後にとっておきの場所を見せてやる、と健が息巻いて車をまた山道へ走らせた。

その場所は、冨士霊園。

私はこの田舎ツアーが徐々に楽しくなってきていた。ここには都会にないものがたくさん揃っていて、見るものすべてが新しかった。

でも、車窓からの景色を見ながらふと気を抜くと、現実がはっきりと待っていて、ここに来る前から抱いていた不安はまだ心の隅に残っていた。