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第1話:春 定住編

「結婚してください」
目の前に出された指輪を見ても、私はまったく実感がわかなかった。これがプロポーズというやつで、いわゆる人生の岐路というやつなのだろう。今日のデートで健(たける)がソワソワしていて、こういうことになるであろうことを想像していたにも関わらず、思わず手で口を抑えるのがやっとで、不自然なほどに涙がこぼれてくる。
「玲奈?」そう言って健は私の顔を覗き込んでくる。
私はうまく返事ができなくて、せっかくの瞬間を申し訳ないなと思いながら、コクコクと頭を縦に振った。
「ありがとう」健は私の左手を取り、指輪を薬指にはめる。今まで見たことがないくらい輝く石を見ても、やっぱり信じられない気持ちでいっぱいだった。
人工的な明かりが浮かぶ夜空からは桜の花びらがちらちら舞い落ちてくる。みなとみらいのさくら通りは私たちのお決まりデートスポットだ。横浜に住んでいる私のために、いつも健は会いに来てくれて、健もすっかりこの街が気に入っているようだった。今日のデートは健がコーディネートしてくれた。私たちの思い出のつまったみなとみらいが、特別な場所になった瞬間だった。
健と並んで歩いている時も、私は左手の薬指ばかり見ていた。
「喜んでもらえてよかったよ」
「こんな綺麗な指輪をもらって喜ばない人いるの? ほら、見て。すごくキラキラしてるよ」
「ところでさ、玲奈」
「うん、なに?」
「結婚したらさ、俺のところにきてほしいんだけど」
「え……。御殿場に?」
「小山町だよ。御殿場の隣」
「えっと……」
「そうだよな、一回しか来たことないもんな。そうだ、今度小山町案内するよ。今の時期なら富士山が綺麗に見えるし、雪だって降ってないし」
「え、雪が降るの?」
「意外だろ? まぁ雪が降るとちょっと面倒なんだけどね。でも大丈夫。今はベストシーズンだから。玲奈にも見せたいものがあるし。楽しみだなぁ」
すごく嬉しそうな顔で話をする健の横顔を見て、私は意見することができなかった。結婚したら小山町に住むの? 仕事はどうするの? 小山町に住むイメージが全然できなくて一気に不安が押し寄せてきた。
それでも薬指の石はキラキラと輝いていた。